信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


いわゆる有病者の歯科治療

23. 甲状腺機能低下症と歯科治療について

2000.6.28 酒井 

定義:
 
狭義には甲状腺組織でのホルモン産生、分泌障害に基づく血中甲状腺ホルモンの低下による病態といえる。広義には、抹消組織に対する甲状腺ホルモンの作用不足による病態である。

分類:

 原発性甲状腺機能低下症

^甲状腺の破壊によるもの
 @慢性甲状腺炎マ橋本病
 A放射性ヨード治療、頸部外照射
 B甲状腺摘除
 Cアミロイドーシスなどの浸潤

_甲状腺ホルモンの生合成障害によるもの
 @ヨードの欠乏または過剰
 A抗甲状腺薬
 B先天性酵素欠損症

 2次性または下垂体性甲状腺機能低下症

^TSH単独欠損症
_前葉ホルモン多欠損症

 3次性または視床下部性甲状腺機能低下症

^TSH単独欠損症
_前葉ホルモン多欠損症

 末梢性甲状腺機能低下症

^甲状腺機能不応症(Refetoff症候群)

 

以上の中でも慢性甲状腺炎による甲状腺の障害が甲状腺機能低下症の最大の原因である。

*慢性甲状腺炎(橋本病)とは?

 慢性甲状腺炎とは甲状腺に対する自己免疫機序によって生じる慢性炎症性甲状腺疾患である。甲状腺ミクロソーム抗体、サイログロブリン抗体が陽性で、TSHレセプター抗体が陰性の場合橋本病と診断される。
 症状:びまん性の甲状腺腫(前頚部の違和感を訴える事が多い)、無力感、皮膚乾燥、嗜眠、言語緩徐、浮腫、寒がり、記憶障害、便秘、体重増加、月経過多  などがある

*橋本病とBasedow病の関係について

 橋本病とBasedow病は相互に移行しうる。Basedow病が抗甲状腺薬で寛解すると甲状腺は橋本病と同じ状態となる。橋本病と同様にBasedow病も甲状腺ミクロソーム抗体、サイログロブリン抗体をもち、刺激型TSHレセプター抗体が出現するとBasedow病で、阻害型TSHレセプター抗体が出現すると突発性甲状腺機能低下症であると定義される。

§歯科治療時の注意点§

|甲状腺機能低下のために全身の代謝活動が低下しているために創傷治癒遅延が予想されるマ一度に広範囲の外科処置はさけ、術後管理を十分行う

}薬物の代謝機能が低下している
マ抗生物質、鎮痛剤の投与は少なめに
マ中枢神経抑制作用のある鎮静剤(セルシン)などの使用は注意!

~代謝低下より血管壁にムコ多糖類の沈着がおこりやすいマ高齢者では高コレステロール血症と重なり動脈硬化がおこりやすいマ心機能の低下マ冠動脈狭窄などが起こった場合わかりにくいマ狭心症、心筋梗塞などに注意!またエピネフリン含有局所麻酔薬の使用やストレスを与えないように注意!

抗生剤や鎮痛剤を投与する際、胃粘膜保護剤などを一緒に処方することがあるが、アルサルミン(消化性潰瘍治療薬)、コランチル(消化性潰瘍治療薬)マーロックス(消化性潰瘍治療薬)など水酸化アルミニウムを含有する薬剤は腸管からの甲状腺ホルモンの吸収を妨げるので使用しない

″b状腺ホルモン剤を服用している場合、クマリン系抗凝血剤(ワーファリン)、交感神経刺激剤(エピネフリン、エフェドリン)などの作用を増強することがあるので注意!

<参考文献>

新内科書           南山堂

有病高齢者歯科治療の実例集  クインテッセンス出版株式会社

病気を持った患者の歯科治療  長崎県保険医協会


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